【帯刀課】

 

心中桜:柳_一話

2019年10月16日

「桜の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか」
有名な文句を不意に口にする柳徹を、相方の狗神実は奇妙なものでも見るように見上げた。
柳は構わず機嫌よく続ける。
「おまえ、この爛漫と咲き乱れている桜の樹の下へ、一つ一つ屍体が埋まっていると想像してみるがいい。何が俺をそんなに不安にしていたかがおまえには納得がいくだろう。馬のような屍体、犬猫のような屍体、そして人間のような屍体、屍体はみな腐爛して蛆が湧き、堪らなく臭い。それでいて水晶のような液をたらたらとたらしている。桜の根は貪婪な蛸のように、それを抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を聚めて、その液体を吸っている――」
「何、それ」
...

心中桜:左_二話

2019年10月16日

左青鈍がふと我に返ると、満開の桜が目の前にあった。
桜吹雪が美しい。
凪いだ湖面に、月が映える。
そのほかには、何もない。
「――あぁ」
別乾坤とは、この事だった。
神隠しに遭ったのだと思った。伊伏麟太郎のことを考えてぼうっとするうち、何かが袖を引いた。
ここはどこだろう。
季節外れの桜だけが目の前に咲き誇っている。
仮に神隠しだとして、戻る方法はどこかにあるはずだった。
神隠しでなかったとすれば、猶更だ。
(いい年した男の独り身なんて、神にさらわれうるだろうか)
とも、思う。
左は桜に背を向けて歩き出した。
いつまでも桜にほうけているわけにもいかない。
だが数歩行くうち、ふと足が止まった。
(......そうか)
ここに来る前のことを、少しずつ思い出し始める。
男と女が結ばれるのを見た。
...

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