【帯刀課】

 

夜散歩

2019年10月28日

「よーす若ちゃん」
適当な呼びかけに、若はくるりと振り向いた。
「お、柳~♪」
ご機嫌な様子に、柳もゆるく笑い返す。
最初は丁寧に「柳くん」と呼んでくれていたのだが、そう呼ばれるたび「柳がいい」と訂正し続けると、いつの日か「くん」が消えた。

昔の話

2019年10月17日

「赤羽さぁ、最近将棋とか好き?」
「え?」
なんでそんな話を振ったのかと問われても、柳はろくな回答を持ち合わせていない。
それを知ってか、赤羽颯太も突っ込んだ質問をしてくることはない。
「君は好きなの? 将棋」
「俺はフツー......てかやったことねェかも」
「ふぅん、そう」
それから何を言うでもなく、割り箸を割る。

祝杯の夜

2019年10月17日

嫉妬も卑屈もお家芸となって久しい左青鈍からすれば、伊伏麟太郎ほど妬ましい人間もそうそういなかった。
あっけらかんとした笑顔は悩み一つないようだし、深く考えずに他人に好意を振りまくそぶりは確固たる自信の表れにも見えて眩しい。
同じ部屋で四年過ごした後、まとまった金ができたので自分だけマンションへ引っ越そうかと思っていると話した。
するといい年をした男が、恥も外聞も無く嫌がった。
「いやや~~~オニちゃんが居らんとボク起きられへんもん~~!!」
「いい年した大人なら目覚まし使ってくださいよ」
「でも起きられへんもん......」
「遅刻したらしばきますよ」
「それも嫌やなぁ......」
しんみりと呟いたあと、伊伏はちょっと間を開けて
「まぁ、でもオニちゃんがそない言うんやったら、しゃあないか」
...

恋慕の話

2019年10月17日

八方美人の飽き性と罵られることは、鵲涼の人生においてそう珍しいことでもなかった。
「頼ってくれる人を助けることって、そんなにいけないこと?」
との一言が原因で、女性と別れた回数は、物心ついた頃から数えるに、両手の指では足りないだろう。
誰か一人に対して想ったり悲しんだりできないのかもしれないと、自分にどこか欠落があるように思えたこともあったが、幸い日常生活に支障はない。
そうして離別の数が足の指を使い切る前に、転機が訪れた。

CS:左 青鈍

2019年10月16日

【基本事項】
名前:左 青鈍(ひだり あおにび)
年齢:31歳
性別:男
身長:189cm
職種:監察官

CS:鵲 涼

2019年10月16日

【基本事項】
名前:鵲 涼(かささぎ りょう)
年齢:27歳
性別:男
身長:183cm
職種:監察官

CS:柳 徹

2019年10月16日

【基本事項】
名前:柳 徹(やなぎ とおる)
年齢:29歳
性別:男
身長:187cm
職種:捜査官

治癒の日

2019年10月16日

点滴を打たれながら放心するのは、左青鈍の日常にはよくあることだった。
「どう、思います?」
いくつか違うとすれば、その時の左がひどく精神を病んでいた点だ。
左の話を聞き終えて、鬼女はしばらくの間黙っていた。
爪の先まで整った指が、左の髪に触れた。
「少し、眠ってくださいね」
穏やかな声で、彼は語る。
六つも年下で、まだ成人したばかりのこの青年に、腹の内を明かしていた。

心中桜:左_一話

2019年10月16日

桜の季節が終わったと、左青鈍は思った。
「結局――」
ふたを開ければ例年と変わらず、阿吽相手の伊伏麟太郎と大した進展はない。
八年前から片恋続きで、実らぬ日々にももう慣れのトウが立ち始めている。
花見に誘った時、伊伏は何の疑念もなく頷いてついて来てくれた。知人も友人もずいぶんいる中で自分のために日を開けてくれて、二人きりで桜を見た。
その横顔がやけに綺麗に見えたのは、きっと年々降り積もる恋慕のせいだろう。
「伊伏」
麟太郎、と呼ぶに至らないまま、年月ばかりが過ぎていく。
「ん、どないしたん?」
伊伏は団子を食べながら不思議そうに左の顔を見た。
「腹、足りた?」
「え、まだ食べてええの?」
「あっちの店の、焼きイカ。美味しいって評判だったから」
「ホンマに?」
伊伏の表情がパッと明るくなる。
...

伊伏の話

2019年10月16日

久々に自分より背の高い人間に会ったと思った。
それが伊伏麟太郎に対して最初に抱いた印象だった。
八年前のことだ。
「どうもー、僕伊伏麟太郎言いますー。気軽にリンちゃんて呼んで~」
にこりと笑うその男に、頭を下げる。
初日の新人研修後、寮の部屋割りを与えられて、出会った相手が彼だった。
騒々しそうだな、というのが、二番目の印象。続いて、友人が多そうだから部屋にはあまり戻ってこないだろうな、と観察が入る。
「はじめまして。左、青鈍です」
「ひだりあおにび? 珍しい名前やねぇ」
「そうですね」
「じゃあオニちゃんやね」
「は?」
「は? やのうてー、あだ名」
そらきた、と、左は思った。
友人に恵まれるタイプの、コミュニケーションが得意な人間。自分とは対極だ。
「結構です。左と呼んでください」
「えぇー」
...

送る人

2019年10月16日

この現場で死人は決して珍しくはなかった。
帯刀すること自体が死を呼ぶのだと、左は考えている。
近代で廃れ切った武器だ。
今の時代に白刃をふるって戦うことに宗教的意義や慣習的な美はあったとしても、実践としてはあまりにも欠点ばかりが目立つ。
なぜ銃では駄目だったのだろう、と、左は考えた。
玉鋼を、刀ではなく弾丸に加工する術がないわけでもないだろう。戦術において遠距離戦のほうがまだ生存率が上がる件については、今更解説するまでもない。
その証拠に近代化以降の戦争では銃器の活躍が顕著だ。だから、帯刀という考え方自体が、既に、戦術の時代に取り残されている。
だが、御託をいくら並べても、死んだ命は取り戻せない。
受付で香典を渡す。
遺された家族の表情には、まだ疲労が滲んでいた。若い妻と、幼い子供がいる。
...

戦術

2019年10月16日

「おまたせ」
バディの伊伏麟太郞が声を掛ける。頬に米粒が付いているから、出動命令を受けて慌てておにぎりをかっこんだんだろう。時間のかかり方から見て二つは食べたらしい。
今更気にする左青鈍でもない。
「お茶要ります?」
「あ、おおきに」
伊伏は差し出されたペットボトルを受け取って、ごくごく元気にお茶を飲み干す。それから口元を軽く拭って、にっと笑って見せた。
「ほな、行こか、オニちゃん」

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