KING's
2019年11月29日
不意にノヴァが、遠くを見つめたまま黙ってしまうことがある。
きっかけは無い。
だがふとした瞬間、ノヴァはひどく遠くに行ってしまう。
「......ノヴァ」
不安になって名前を呼ぶ。
するとノヴァは、品よく微笑みを返す。
俺の知るノヴァじゃない。彼女はもっとあどけなく、幼すぎるほどに笑う。
なのに、そんなときのノヴァは、年齢相応の淑女の笑みをこちらに向ける。
「あなたは、だぁれ」
そう問われるのにも、少しずつ、慣れてきていた。
「......ジョーだよ」
そっと手を取って、紳士らしく、彼女を導く。
「こっち、夕飯の支度がもうできるから」
「そうなの?」
ノヴァは怪訝そうにこっちを見て、無邪気に問いかけた。
「それで、ジョーはだれなの?」
ずきりと、心が痛む。
この質問にはきっと、いつまで経っても慣れない。
「......お前の、持ち主だ」
記憶のない彼女にそれを言ったところで、通じない。
それでも伝えずにはいられない。
自分を見上げるノヴァは、こちらが何を言っているのか理解できていない。
それでも彼女は「そうなのね」と理解したように、頷いて見せた。
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「ジョー」
本を読んでいると、ノヴァがぎゅっと抱き着いてきた。
「どうした?」
「えへへー」
ノヴァは何も説明せず、ただにこにこと笑っていた。
本を置いて、頭を撫でる。
柔らかな髪が、するりと指を滑る。
今は、彼女は腕の中に収まっている。
「......お前は、」
いつまでここにいてくれる? なんて弱気は、王にはふさわしくないと思った。
だから黙って、髪をなでる。
「お前は、俺のだよ」
ノヴァはちょっと首をかしげて、それから無邪気に、笑って見せた。