くすみさまファイル02
1週間後、くすみに呼び出され会議室へ集合した三春と柳は、簡単に成果を報告した。
殺された場所は、骨のある場所とは違う、もっと遠方であること。
骨自体は、今ちょうど交差点の中心となっている場所にうずめられていること。
おそらく意図的に、その場所にうずめられているであろうこと。
「調べてみたらその場所だけ交通事故の発生率が圧倒的に高い。同じ道路運行状況、天候、地理的条件の他交差点と比べても、三倍近い数値だった。将来的に、空を招いていた可能性もあるかもしれない。具体的なデータについては、情報分析班の返答待ちだ」
書類データを見せながら話す柳を見て、くすみは退屈そうにあくびをした。
「アンタ細かい数出すのホンマ好きやんなぁ。うちよぉけしぃひんわ、そないなん」
嫌みっぽい口ぶりだった。くすみは関心の薄い目を柳に向ける。
「......お前が頼んだ仕事だろ」
「うちそないなんどないでも構へんのやけど。頼んだんは、骨のありかしらべることだけやし」
柳はムッとしたが、三春が穏やかに首を振るのを見て反撃をあきらめる。
くすみは三春へ視線をやった。
「ハル。骨のありかは、その交差点の中央で間違いあらへんのやね」
「はい。正確な場所は、こちらの地図です」
「ん、おおきに。ほな、調査ご苦労さん。これお礼のお駄賃」
くすみは無造作に茶封筒を二人に渡す。
狐をかたどったハンコが押された封筒の中には、確かに八人の諭吉が並んでいた。
「いいのかよ、こんなにもらって」
「ええのええの。パトロンも喜んだはったし」
「パトロン?」
「アンタには関係あらへんよ」
くすみはにこりと微笑んだ。
「ウチの予想より、アンタら仕事出来そやね。また次頼むわ」
「はい、喜んで!」
「ふふ、ハルは素直やんな。ナギも見習わなあかへんよ」
「ナギって、俺?」
「ほうよね、ハル」
「はい、ナギは柳徹のことです」
「ほらー、ちゃんとハルは分かっててえらいなぁ」
柳は眉間にしわを寄せて「そうかよ」と腕組みし、黙り込んだ。
そんな些細な不機嫌どこ吹く風と、くすみは茶色のファイルを取り出す。
「ほんで、次の仕事やねんけど」
三春と柳はぱちくりと顔を見合わせた。
「これでおしまいじゃないんですか」
「え? 今さっき、次頼むていうたし、喜んで、ってハルも答えたはったよね」
「いや、それはそうなんですけど、でもあまりにも急というか」
「そないに難しいこととちゃうよ? この地図に指定されたはる心霊スポット10か所めぐって、写真10枚撮るだけやねん」
こともなげに言ってのけて、くすみはこてりと首を傾げた。
「それとも怖いん?」
「怖いというよりは、その......」
説明に言いよどむ三春の言葉を、柳がつぐ。
「普通にダメだろ!? 霊感体質二人で心霊スポット10か所だと?! 気ィ狂ってんじゃねぇのか、殺せっていうようなもんだ」
柳の猛攻に、くすみはにっこりと笑って見せた。
「報酬は一人15万」
「う」
「え」
三春と柳の動きが、一瞬止まった。
「悪ない条件やろ? あんまり危ないようやったら、知人のええ祓い師つけたるさかい」
二人は、金と命を、天秤にかけた。
もうクリスマスも近い。年越しもくる。この時期の答えは、すでに明白だった。
「やる」
「お手伝いさせてください、よろしくお願いいたします」
「ほなこれ資料、あとよろしゅう」
くすみは満足げに目を細め、二人に年季の入った茶封筒を手渡した。