くすみさまファイル01

2019年11月26日

 宗くすみが本部へ出向してから、約二年ほどが経ったある日の、昼下がり。
 「今日はよぉ来てくれはったなぁ」
  にっこりと会議室で目を細める彼--ないし彼女の前には、三春喜助と柳徹が並んで立っている。
  どこか雰囲気の似た、気だるげな二人だった。身の丈はどちらも185近く、覇気のない視線は、ここへ呼び出されたことへの困惑と、くすみの思惑を警戒するように真っすぐに向けられている。

「で、何の用だよ」
  口を開いたのは柳だった。
  大阪と本部で分かれてはいるものの、くすみと彼らは同期に当たる。口の利き方に何ら問題はないはずだが、くすみはぴくりと眉を動かした。
 「ずいぶんなご挨拶やんなぁ、柳」
 「俺たちも暇じゃねえんだよ。抱えてる案件だってある、定時まで時間もない」
 「相変わらず残業嫌いやの?」
 「残業好きとかいるか? ふつう」
 「せやったら、いらん口叩くのやめて、ハルみたいに大人しゅうウチの話が始まるの待ちよし」
  柳はチッと舌打ちした。

 一方、数年前にくすみとバディを組んだ経験のある三春は、どこかあきらめたように虚ろな目をしている。

 その視線をくすみへ戻し、三春は口を開いた。
「それで、ご用は何でしょう」
 「簡単なことやねん。ちょっとした、アンタらの特技使うて、探してほしいものがあるんよ」「なんだよ、勿体つけて」
 「この辺の、大通りの辺りてな、昔更地やったんて」
  くすみは窓の外から見える景色を指さす。
  冬の曇天は、二人の未来を暗示するかのように、どこまでも晴れ間が見えなかった。
 「えぇと、それが?」
 「そこでな、五十年ばかし前かな。女の子が一人、くびり殺されて死んだんよ。でも死体が見つからひん」
  不意に飛び出す物騒なワードに、三春と柳は顔を見合わせる。
 (俺と、お前と、行方不明者)
  結び付けられる事態をいち早く察知し、柳は目頭を押さえ、三春は祈るように天を仰ぐ。
  「......つまり、俺たちに骨を探せ、と?」
  三春の言葉に、にっこりとくすみは頷いた。
 「やっぱりハルは賢いわァ。アンタに頼んでホンマ正解やねぇ。女の子の骨、この道路のそばどこかに埋まってるはずやねん。それを霊感体質のアンタらで探して、持ってきてほしいんやけど......」
 「お前いい加減にしろよ」
  猛然と抗議しようとしたのは柳だ。
 「だいたいそんな物騒な話協力して、俺たちに何のメリットが......」
  と正論を叩きつけようとした柳の鼻っ面を、くすみは容赦なくひっぱたく。
 「てっ、めぇ......!」
 「まだウチがしゃべっとる途中やろ」
  怒鳴ろうとする柳を、三春が取り押さえる。
 「バカヤロウ、まだくすみ様のお話の最中だろ! すみませんくすみ様、こいつには俺からきつく言っておきますので!」
 「喜助!? お前どうしちまったんだよ」
 「柳! いいから、ここは逆らうな」
  柳はむっとしたものの、三春の言葉に従っておとなしくなる。
  くすみはにこりと、二人を見遣った。
 「期限は二週間後。掘り返されへんやったら場所だけでも構へんから、よろしゅうな。報酬は二人に8万ずつ。ほな」
 「ほな、ってお前」
 「要件は済んださかい。言いたいことあるんやったら、何でも言いよし」

 そう言いながら、くすみは両耳にすっとイヤホンを刺す。

「テメェホント殺すぞいつか」
  明確に敵意をあらわにする柳を見て、くすみはクツクツ笑った。

「あら嫌やわぁ、赤シャツのチンピラが何や吠えたはるけど聞こえへん」
 「それが人にものを頼む態度か」
 「ハル」
  くすみに声をかけられ、三春はぴしゃりと背筋を伸ばす。
 「柳連れて出てって」
 「はい、おおせのままに」
  そして、言われた通り、柳を引きずって会議室を後にした。

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