KING's
不意にノヴァが、遠くを見つめたまま黙ってしまうことがある。
きっかけは無い。
だがふとした瞬間、ノヴァはひどく遠くに行ってしまう。
「......ノヴァ」
不安になって名前を呼ぶ。
するとノヴァは、品よく微笑みを返す。
俺の知るノヴァじゃない。彼女はもっとあどけなく、幼すぎるほどに笑う。
なのに、そんなときのノヴァは、年齢相応の淑女の笑みをこちらに向ける。
「あなたは、だぁれ」
そう問われるのにも、少しずつ、慣れてきていた。
「......ジョーだよ」
そっと手を取って、紳士らしく、彼女を導く。
「こっち、夕飯の支度がもうできるから」
「そうなの?」
ノヴァは怪訝そうにこっちを見て、無邪気に問いかけた。
「それで、ジョーはだれなの?」
ずきりと、心が痛む。
この質問にはきっと、いつまで経っても慣れない。...