梶タクミ
名前:梶 功(かじ たくみ)
年齢:29歳
性別:男
身長:179cm
職種:情報分析班
名前:梶 功(かじ たくみ)
年齢:29歳
性別:男
身長:179cm
職種:情報分析班
不意にノヴァが、遠くを見つめたまま黙ってしまうことがある。
きっかけは無い。
だがふとした瞬間、ノヴァはひどく遠くに行ってしまう。
「......ノヴァ」
不安になって名前を呼ぶ。
するとノヴァは、品よく微笑みを返す。
俺の知るノヴァじゃない。彼女はもっとあどけなく、幼すぎるほどに笑う。
なのに、そんなときのノヴァは、年齢相応の淑女の笑みをこちらに向ける。
「あなたは、だぁれ」
そう問われるのにも、少しずつ、慣れてきていた。
「......ジョーだよ」
そっと手を取って、紳士らしく、彼女を導く。
「こっち、夕飯の支度がもうできるから」
「そうなの?」
ノヴァは怪訝そうにこっちを見て、無邪気に問いかけた。
「それで、ジョーはだれなの?」
ずきりと、心が痛む。
この質問にはきっと、いつまで経っても慣れない。...
残念でないと言えば、嘘になる。
同年代で、身内も恋人も固定バディもいない捜査官。
その中でもまぁ仕事の出来る方で柳徹を当て込んでいたのだが、アテは外れた。
(なかなか居てへんのよね。死んでも誰も文句つけひん人材て)
部屋に入ると、宗くすみがこちらを見ていた。
銀の目、銀の髪、赤い唇。
何一つ変わらぬまま、またどこか女らしくなったと思った。
性別について、彼は特段何も語らない。女だと周囲に思わせておいて、自分からは何も否定しない。一晩口説いてホテルに連れ込まなければ、多分自分も知らなかっただろう。
結果見解の相違で何も起きずに帰宅したが、宗くすみの歪みのようなものをまざまざと見たのは確かだ。
「久しぶりやんなぁ」
くすみは薄く目を細めた。
「まぁ座りよし。茶ァも何もあらひんけど」
「気遣いなんて出来たんだな」
「やぁね。ウチのことそないに思うてるん? いけず」
くすみは口元に手を添えてクスクス笑う。
基本的に人の話を聞かない男だ。自分の得意の口上は、ほとんど意味がない。
...
出勤した柳徹は、ウェブカレンダーを開き、眉根を寄せた。
午後1時、覚えのないミーティングが入っている。
(なんだこれ)
予定の招待者を確認する。
表示されたのは、宗くすみの名前だった。
拒否しようにも、すでに予定がブロックされている。
柳は息を吐き、椅子にもたれた。
(やっぱり、見間違いじゃなかったか)
昨日、各部署の挨拶回りをしている姿を遠目に見かけていた。てっきり一日程度の出張かと思っていたが、念のためくすみの予定表を確認し、また首を傾げることとなる。
くすみの所属は、東京に変更されていた。
(......どうなってる?)
他人の人事にはあまり関心がない。人事(じんじ)とかいて人事(ひとごと)と読む。
しかしさすがに、自分の機微には敏感だ。
...
「......つまらん男」
そう言って胸を指先で軽く突き飛ばした。
保泉は、途方に暮れたようにくすみを見つめていた。
「ちょっと思ったんだけどさ、廃墟の中で火ィ焚くのって、法律的にどうなんだろう」
11月の吹きすさぶ風の中、二人は廃トンネルの前に車を停めた。
1週間後、くすみに呼び出され会議室へ集合した三春と柳は、簡単に成果を報告した。
宗くすみが本部へ出向してから、約二年ほどが経ったある日の、昼下がり。
「今日はよぉ来てくれはったなぁ」
にっこりと会議室で目を細める彼--ないし彼女の前には、三春喜助と柳徹が並んで立っている。
どこか雰囲気の似た、気だるげな二人だった。身の丈はどちらも185近く、覇気のない視線は、ここへ呼び出されたことへの困惑と、くすみの思惑を警戒するように真っすぐに向けられている。
名前:宗 くすみ(そう くすみ)
くすみの名は「鐃」と書くが、ほとんどひらがなで表記している。
別に自死願望が人より強いわけでもない。
ただ怪我の治りが早かったのと、昔から運動神経だけはズバ抜けていたから、公務員として勤める中でも帯刀課を選んだんだと思う。
もしこの仕事がなければ、スタントマンでもやっていただろうし、多分その仕事でも悪くはなかった。
誰に命を期待されるでもない、半端者だ。
俺自身、俺の人生になんの期待もしていない。叶えたい夢もなければ、愛されたい人もない。
「柳先輩って、よく口癖で言いますよね」
飲み会で大体の後輩は、こんな話を振ってくる。
「『俺は絶対死なない』って」
「そーだよ」
俺はヘラヘラ笑って見せた。
「だってホントだかんね。俺は絶対死なないし、こんな仕事のために死んでちゃ人生もったいない」
後輩から、笑いが漏れる。
「だからいつも定時なんです?」
「そうそう。こんな仕事のために死んでちゃ人生もったいねぇもん。俺にとって仕事ってのは、金を得るための手段で、人生そのものじゃ無い。むしろ仕事の余白をどう生きるかが、人生だと思ってるからね」
「へぇ」
後輩たちは、わかったような顔で酒を口にする。
「じゃあなんで、この仕事にしたんです?」
「向いてる仕事の中でも、一番稼ぎがいいからだよ」
「はは、柳先輩らしい」
...
何を見たのか、最初はよくわからなかった。
何を見ているのか理解したとき、祓わなきゃならないと知った。
本田髷。
背中から二の腕にかけて鬼の刺青がある。
切れ長の目。声が良い。
職業:按摩師、祓い屋。
取り憑かれているような人を見つけては声をかけ、按摩の要領でしれっと祓う。
好みの顔がいれば別段取り憑かれていなくても大嘘ついて按摩っぽくすけべする。
「やっちゃん、聞いとる?」
目の前でぽんと手を叩かれ、我に返った。
「あ......、さーせん、ちょっとぼーっとしてました」
「なんや、疲れとるんやったらまた今度でもええけど」
「やー、全然平気っす」
「ほんまに? ほな説明再開するけど、いつでも無理なら無理て言うてかまへんさかい」
綾杉は柳の顔を心配そうに見つめるも、器具を取り出して見せる。
黒い小ぶりの折り畳み傘に似た道具だった。
「これな、レーダーになっとってん。空の成分みたいな、あの黒いのを感知して距離を測れるようになっとる。力抜いて持ってみて、そばに空がおったらそっちのほう自然と向くんや」
「距離はどのぐらいです?」
...
「ノヴァ」
「なぁに」
「視線やらずに、後ろのほう確認できるか」
「見ちゃダメってこと?」
「そう」
ノヴァは少し眉根を寄せた後、ポケットから手鏡を取り出した。
髪を整えるそぶりをしながら、後ろを確認する。
「二人。男の人?」
「たぶんそいつらが客だ」
違法吸血の仲介業者がいるという。
若いブラッドワーカーの女を集めて、望まぬ吸血に応じさせる。
「どうしてそう思ったの?」
「二人とも、唇に同じラメが残ってる。店の女が肌をきれいに見せるために使用させられるものと同じだ」
「あ、鑑識が言ってたラメ?」
「そう。あの二人がゲイで熱烈なキスでもしてない限り、十中八九店帰りだ」
「どうするの? 捕まえる?」
「いや。あの二人には近づかなくていい。おかげで店の位置が割れたから、入り込む」
「どうやって?」
...
三春は苦い顔をしてため息をついた。
「......余談のインパクト強すぎて何も頭に残らなかったんだが」
「え、あー......」
柳も、やってしまったとは思ったらしい。
「いやまぁ、俺もほら、若いからさ」
「俺も同い年だが?」
「うっそー三つぐらい上かと思ってたー」
「柳徹。不純異性交遊の相談なら、学担の佐々木先生にしろ。人生の力になってもらえ」
「ハッ、それこそ冗談だろ? あの学担、森谷のお袋とデキてんのに」
「えっ」
「三春喜助、お前何も知らねぇのな......」
脱線した、と、柳は話を戻す。